ビアスタイルがポイント! ビアジャーナリスト宮原佐研子が教える クラフトビールのおいしい選び方 Vol.2ペールエール・クリームエール・アルト・メルツェン編
ワインは、赤、白、ロゼやブドウ品種で選ぶように、ビールもビアスタイルで選ぶ時代になりました。でも、世界には100種類以上のビアスタイルがあって、迷ってしまうことがあるのも事実。ちょっとした知識さえあれば、今日のあなたの気分や大切なあの人にぴったりのビールを選ぶことができます。ビールのことならおまかせあれ!のビアジャーナリスト・宮原佐研子が、選び方のポイントを楽しく、美味しく教えます。
猛暑にバテていませんか? こんなときは、キンキンに冷えたビールをグイーっと飲み干したくなります。
でも、アパレルのショーウインドウが秋色へと変わり始めている今、ビールも麦芽の旨味が楽しめる、どこか秋らしさが感じられるビールをチェックしてみては?
中世の頃のビールは「液体のパン」とも呼ばれ、滋養強壮のために飲まれていた時代もありました。喉の渇きを癒すだけでなく、ビールの麦の味わいやホップの香りをじっくりと味わうのも、ちょっぴりワンランク上のビールの楽しみ方です。
エールビールの代表選手・ペールエールも今は個性豊かに
Vol.1で紹介したように、ビールには大きく分けてラガーとエールがあります。ラガーの代表的なビアスタイルがピルスナーなら、エールはペールエール。イギリスで伝統的に造られるペールエールはやや明るい銅色で、ピルスナーに比べると少し濃い色ですが、このビアスタイルが生まれた18世紀の頃のイギリスでは、ビールはほとんど濃い色だったので「ペール=薄い」と名付けられました。
IPAと同様に、このビアスタイルもイギリス生まれながら世界へ広がり、現在はホップの香りが高いアメリカン・ペールエールも世界で人気を博しています。ちなみに、イングリッシュ・ペールエールとアメリカン・ペールエールの違いは、例えるならイギリス紳士とアメリカのロックスター。前者に使われているホップは、ハーブやダージリンティーのような香りを持つイギリス産を。後者は、グレープフルーツやオレンジのような柑橘の香り、苦みのある北米産のホップを使用。華やかな香り&苦みが楽しめます。
また、それまで世界の主流だったエールビールは、1842年のピルスナーの誕生でその立場が逆転していきます。エールで醸造している人たちが、なんとかピルスナーのようなビールが造れないかと試行錯誤をして生まれたのが、エール酵母で発酵し低温で熟成するハイブリッドのビアスタイル、クリームエール。そんな風にビールは、歴史とともに進化してきました。
ちなみに、イギリスと言えばパブ文化発祥の地。ロンドンのパブは、少なくなったと言われつつもおよそ3,530軒(2017年現在 ※1)が営業し、市民の憩いの場になっています。面白いのは、それぞれ個性あふれるパブの看板。
歴史的な英雄や英国王室はもちろん、童話や動物、鳥、そしてちょっと笑ってしまうようなユーモアある看板も。私が気になるのは、看板に顔のない全身女性が描かれた「Quiet Woman(静かな女亭)」。それは、ガミガミ口うるさい女房から逃げたい亭主が集まる隠れ家? パブ。一体どんな男たちが集まっているのか、覗き見半分飲みに行きたいと思っています。
そんな個性あふれるパブを一晩に何軒も巡るのが“パブクローリング”。日本で言えば“はしご酒”をテーマに、一晩12 軒もパブクロールしながらいつの間にか地球を守るという、壮大でちょっとおバカな酔っ払い映画『The WORLD’S END(邦題:ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う!)』(エドガー・ライト監督、サイモン・ペッグ主演)もイギリスで制作され、日本では2014年に上映され人気となりました。
一晩に12軒は無理だけど、街を決めてビアパブや居酒屋をはしごする、街のみクローリングに最近私はちょっとハマっています。廻ることで店同士の繋がりや知らなかったその街の新たな発見もあり。身近な街ながら、どこか旅人になったような感覚も味わえます。ぜひ“街クロ”トライしてみては。
※1 London Pubs 2018 Annual Data Note(Greater London Authority June 2018)より
▲(上)明るい銅色のペールエール。イギリスのパブではこの独特な形のノニックグラスで提供される。膨らみの形状は持ちやすく、グラスを重ねてもくっつかないので割れにくいのが利点
▲(下)ロンドンのパブクローリングに便利な地下鉄やバス路線のハンディマップと映画のキャンペーンコースター。そして、いつか訪れたい「Quiet woman」の看板。ちょっとシリアスですが、男たちの願望はいろんな町であるようでほかにもパターンがあるようです
ヤッホーブルーイング よなよなエール(長野県軽井沢町・日本)
ヤッホーブルーイングの創業者がアメリカ留学中に飲んだエールビールに感動し、こんなビールを日本で広めたい、そしてビール文化をもっと豊かにしたい、と1997年7月7日に誕生したビールです。
2016年には、20年ぶりに味わいをリニューアル。さらにフレッシュな柑橘の香りと、爽やかなモルトのコクがホップの苦味にくっきりと引き立ち、ホップの余韻をいつまでも楽しめるような味わいに進化しました。クラフトビールに興味があるならまず飲みたい、大人気のアメリカン・ペールエールです。
299 CAMERON’S BERWING COSMIC CREAM ALE(オンタリオ・カナダ)
郊外で見上げた星空、あまりの美しさに思わず手を伸ばし星に触りたくなるような気持ちが、このビールの名前になっています。
クリームエールとは、エール酵母を使って発酵し、その後ラガービールのように低温で熟成させたビアスタイル。誕生とともに世界にセンセーションを起こしたピルスナーの魅力になんとか近づけたい、と手を伸ばしエール酵母を使って完成させました。
蜂蜜のようなアロマを持つこのビールは、ホップの苦味とモルトのふわりとした甘さがあり、スッキリとフィニッシュ。使用するホップは、定番のハラタウとオーロラという品種。残暑の余韻を残す夜に、星を眺めながら飲みたいビールです。
「ビールはやっぱり“麦酒”なんだな」と改めて感じ入る
アルトもメルツェンもドイツ生まれのビアスタイルです。アルトは、ドイツ語で古い(=OLD)の意味。古いといえども古酒ではなく、19世紀にピルスナーが誕生し、その後冷凍機などの技術の発達で世界中に広まったラガービールよりも昔から造られていたビール、という意味になります。
地元ドイツ西部のデュッセルドルフでは、このビールしか飲まないという人も多いそうです。また、メルツェンはドイツ語で3月の意味。毎年9月の終わりから10月の初めにかけて、ミュンヘンで開催されるビールの祭典・オクトーバーフェストのため、長期熟成できるビールを3月に仕込んだことからこの名前(またはオクトーバーフェストビール)となりました。
オクトーバーフェストは、本場とは別に日本全国で開催される「ビールのお祭り」として知っている人も多いかもしれません。このイベントの醍醐味は、各種ビールを専用グラスで楽しめること。
会場では、最初のオーダーでグラスの預かり金1,000円を払い、グラスにビールを注いでもらいます。お代わりや別のビールを飲むときは空いたグラスと交換、最後にグラスを返却すれば1杯目に支払った預かり金が戻ってくるというシステムです。
会場は、本場ドイツと同じように長いテーブルと長椅子に大勢で座り盛り上がるのですが注意点も。
あるとき、私が座ったテーブルの反対側の団体が一斉に立ち上がりその反動でテーブルが跳ね、グラスが落ち割れてしまったことがあります。グラスの預かり金は…もちろん戻らず。みなさんもテーブルの端に座るときは、気をつけてくださいね。
▲(左)グラスに注いだすすきのビールのメルツェン。メルツェンでも、もう少し黄金色のタイプがある
▲(右)本場ドイツのオクトーバーフェストにも負けない、北海道・札幌の大通公園で毎年盛大に開催される「さっぽろ大通ビアガーデン」。1954年から始まり、1957年から大通公園で開催されています
横浜ビール アルト(神奈川県横浜市・日本)
日本初のビール醸造所ができたのは横浜です。その歴史ある地に横浜ビールが開業したのは、1994年12月。当初は日本地ビール事業研究所(株)としてスタートしました。横浜ビールは定番ビールを英・米・ドイツ・チェコの4カ国のスタイルを汲むビールで構成。
そのひとつであるアルトは、ロースト麦芽の香ばしさとみずみずしいほのかな甘みが特長。ホップの苦味は強くないので、苦いビールが苦手な人にも飲みやすいビールです。
このブルワリーでは、例えば横浜の水源である道志村の湧き水を使ったビール、神奈川県内の農家、老舗レストランの協力を得た限定ビールなど、神奈川にまつわるものを多数醸造。横浜だからこそのビール造りを行っています。
すすきのビール メルツェン(北海道札幌市・日本)
札幌のすすきのは、国内外から観光客が集まる一大歓楽街。このビールはそのほぼ中心にブルワリーを構え造られています。
そんな都会のイメージとは裏腹に、水はマイナスイオン水と北海道・八雲市から取り寄せた熊石海洋深層水を使用。ロースト麦芽を使用したこのメルツェンは、カラメルの香りそのままに、甘く香ばしい味わいが柔らかく口に広がり、ホップの苦味をほとんど感じさせません。
いわゆるメルツェンは、長期熟成のためにアルコール度数を高めに造る場合が多いのですが、これは5%なので飲みやすさも申し分なしです。優しい味わいは、1日の終わりにゆっくりと飲みたくなるビールです。
グラス選びでビールがもっとおいしくなる
種類によってグラスの形が変わるワインのように、ビールにもそのビアスタイルに合うグラスの形状があります。
オクトーバーフェストでもふれましたが、特にヨーロッパのビールは、その銘柄に合わせた専用グラスを用意しているところが多く、ボトルのビールがグラスの縁ぴったりに注げるよう設計されているものもあります。
それ以外に、グラスの形状はビールが口に流れ込むときの幅や速さを調節します。それぞれのビールが持つ特長を活かす形状のグラスを選ぶことで、それまで気づかなかったビールの香りや味を発見することもできます。
専用グラスをそろえるのは大変ですが、自宅にあるストレートグラス、ワイングラス、厚手のグラス、薄手のグラスなどを数種用意して、同じビールを注ぎ飲んでみてください。飲み比べると、ビールは同じはずなのにどこか違う味わいが感じられるでしょう。
さあ、どれがお気に入り? 好きなビールが「このグラスだとよりおいしい!」を見つけられることができたら、もっと楽しくビールが味わえますよ。
【ライタープロフィール】
ビアジャーナリスト 宮原佐研子
日本ビアジャーナリスト協会所属ビアジャーナリスト、日本パンコーディネーター協会認定パンコーディネーターとして、雑誌『ビール王国』(ワイン王国別冊)、食のキュレーションサイト『ippin』、webマガジン『ビール女子』他で執筆中。日本パンコーディネーター協会主催世田谷パン大学でパンとビールのペアリング体験講座も開催。