希少なアマゾンカカオが香る、「ミシュランガイド東京 2019」1つ星店が世に放つエスプリに富んだ大人のショコラ
オープンから2年という歳月で、「ミシュランガイド東京 2019」にて星を獲得した北参道のフレンチ「シンシア」。予約がとれない実力店の味を自宅から気軽に注文できるとあって、「アマゾンカカオのテリーヌ」が注目され続けています。驚きと感動に満ちた料理で知られる「シンシア」ならではの美味しさの秘密を、オーナーシェフ・石井真介さんとパティシエ・大山恵介さんに伺いました。
「ミシュランガイド東京 2019」で星を獲得した実力店の味が手土産に
にぎやかな原宿と新宿の中間に位置していながら、閑静な住宅街が広がる北参道エリア。その一角にひっそりとあるフランス料理の名店「Sincere(以下、シンシア)」を訪ねると、深呼吸したいようなチョコレートのいい香りが漂っていました。
シンシアを切り盛りするのは、オーナーシェフ・石井真介さんです。「オテル・ドゥ・ミクニ」や「ラ・ブランシュ」といったフレンチの巨匠の元で技術や知識を学び、帰国後はフランス料理店「バカール」を渋谷・松濤にオープン。
“日本一予約が取れない店”と謳われた同店は惜しまれながら閉店し、その翌年となる2016年に立ち上げたのがこの「シンシア」でした。
▲オーナーシェフ・石井真介さん
まだか、まだかと石井シェフの再起を楽しみに待っていた美食家たちが快哉を叫び、「シンシア」は瞬く間に有名店へ。「ミシュランガイド東京 2019」でも1つ星を獲得し、再び予約困難なお店となっています。
「フレンチですが、かしこまらずに。肩の力を抜いて、食事の時間を楽しんでいただきたいと思っているんです。かわいかったり、驚きがあったりして、食べる人が思わず笑顔になるような一皿を作りたい。そういう意味で、僕は彼の作るデザートがとても好きなんですよ」と話す石井さん。
“彼”とは、お隣に座る若きパティシエ・大山恵介さんです。
▲大山さん(左)は専門学校で洋菓子を学んだ後にフランスへ渡り、数々のレストランで技術を磨いて帰国。「シンシア」のオープン時からデザート部門を担ってきました
「シンシア」で食事を楽しんだ人々がこぞって持ち帰る、この「アマゾンカカオのテリーヌ」も大山さんが手がけたものです。
▲パッケージには、カカオの樹と花も。細部に至るまでカカオづくしのスイーツです
アマゾンからやってきた、フェアトレードの美味しいカカオ
まずは、メインとなる食材をご紹介しましょう。きっと初めて目にされる方も多いはず。実はこれが、たくさんのシェフたちの熱い思いによってはるばる日本にやってきた「アマゾンカカオ」です。
▲南米・ペルー産のアマゾンカカオ。両手でやっと持てるサイズです
このカカオを使うことになったのは、太田哲雄シェフの活動がきっかけでした。世界的な名店「エル・ブジ」や「アストリッド・イ・ガストン」などで経験を積んだ太田さんは、イタリアやスペイン、ペルーでの修行の後にアマゾンの奥地でカカオを取り巻く貧困に出会いました。
「チョコレートの多くは、メーカーが格安で買い叩いたカカオにバターや生クリームを加えたものです。メーカーは潤いますが、カカオの生産者は貧しいまま。そこで、チョコレートではなくカカオそのものを直輸入し、利益を生産者に還元する活動を太田シェフがスタートされたんです」
▲「かねてから交流のあった太田シェフの想いに賛同して、僕らもアマゾンカカオを使ったメニューを作ることにしたのです」と石井さん
香りがよく、美味しくて品質がいいこのアマゾンカカオは、「シンシア」をはじめ、表参道の「ラ・ブランシュ」、青山の「フロリレージュ」、銀座の「アロマフレスカ」といった名のあるレストランでも使われています。
カカオってどんな味? 知られざる“本来の味”を生かしたテリーヌを
「シンシア」にアマゾンカカオがやってきたのは2018年のこと。
「美味しいし、珍しいし、面白いでしょ? 大山、頼んだよ!」と、石井さんにアマゾンカカオの取り扱いを一任された大山さん。
パティシエとして使い慣れたチョコレートではなく、カカオと真正面から向き合うことになりました。
「チョコレートを使ったケーキなら料理人でも作れますが、原料のカカオの時点からとなると…。カカオ本来の魅力を生かしながら、硬さやなめらかさを極限まで追求できたのは、専門家であるパティシエの技術ならではでしたね」と、大山さんだったからこそ完成したテリーヌだと話します。
▲「カカオの扱いって難しいんですよね…」と当時を振り返る二人。大山さんとカカオとの苦闘は並大抵ではなかったようです
「カカオ本来の魅力とは?」そう尋ねると「“酸味”です!」と口を揃えるお二人。
「カカオはフルーツなんです。このテリーヌでは、カカオが本来持っているフルーティな酸味と豊かな香りを表現したいと思いました。そこが最もやりがいのある点であり、最大の難関でもありましたね」と大山さん。
芳醇な酸味と香りを閉じ込めたカカオのテリーヌができるまで
続けて「酸味と香りを最大限引き出すには、生クリームやバターを極力控えめにして、なるべく水を使いたいと思いました」。しかし、肝心のカカオパウダーは乳脂肪がないと混ざりにくく、水を混ぜると分離したり、食感が悪くなったり、硬くなりすぎたり、柔らかくなりすぎたり。分量の調節に四苦八苦したと言います。
ついに辿りついたレシピの主な材料は、カカオペースト、カカオバター、卵、砂糖だけというシンプルなもの。小麦粉は一切入れないグルテンフリーです。
▲カカオをボウルに入れてザクザクと砕いていきます
作り方は、砕いたカカオペーストと溶かしたカカカオバター、砂糖と卵を加えて混ぜ、生地をテリーヌ型の中に流し入れます。生地の表面には、カカオの殻の部分であるカカオニブをトッピング。
「カカオニブは、シャリッとした食感がユニークでコーヒー豆のようなほろ苦さが良いアクセントになるんです。カカオのすべての部位を余すことなく、丸ごと味わえるようにしました」と言うように、素材ひとつひとつの魅力を丁寧に生かしています。
▲カカオの溶け具合などを確認しながら、加熱していきます。状態を見極めて焼成完了。オーブンから出し、放熱のためテーブルに並べていきます
カカオの力強い生命の味が息づく大人のショコラ
一切れのショコラを口に運ぶと、キリッと角が立っているのに、舌の上でつぶせるほどの柔らかさ。ガトーショコラのようなザクザクとした食感ではなく、しっとりとした、なめらかなプリンのようです。
▲程よく冷ましたテリーヌをさっと火で炙った包丁でカット。ツヤツヤと光る断面が現れました
味わいは、自然の命そのものをいただくようなパワフルな苦味と、ハッとするようなフルーティな酸味。その後、控えめな甘みがじんわりと広がります。まさに、ビターだけでは嫌、でも甘いだけでは物足りない、そんな大人のためのショコラ。コーヒーや紅茶はもちろん、赤ワインやウィスキーといったお酒にもよく合います。
温度によって、ガラリと食感が変わるところもまた楽しいもの。冷蔵庫から出した直後は、生チョコレートのようにホロホロとした硬めの感触。しばらく常温で置いておけば、まったりと柔らかいテリーヌショコラへ。ほんの少し温めれば、トロリと溢れ出すフォンダンショコラに早変わり。切りわける厚さによっても味わいが変わるので、もはや七変化の趣です。
心が踊るような楽しみとアイデアが詰まった、美食でファンを魅了し続けている「シンシア」。カカオの生命の味とともに、「みんなが笑顔になるものを」という「シンシア」の哲学と世界観を閉じ込めたテリーヌを自宅で味わえる、その贅沢をぜひ体感してください。
Sincere
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