柑橘の美味しさを知り尽くした農家が作るみかんゼリー
柑橘の一大産地として知られる愛媛県。さんさんと降り注ぐ太陽と瀬戸内海から吹き込むやさしい海風に育まれ、甘くて果汁たっぷりの香り高いみかんが実ります。みかんを知り尽くした農家の強みを生かし、栽培から商品の加工、販売までを自ら行うのが石丸農園です。
東京暮らしを辞めて50年続くみかん農家の5代目に
愛媛県松山市堀江町は、中心街から車で30分ほど離れた、昔から温泉が湧き出るのどかな地域です。
周囲に広がる山の斜面で、石丸農園は50年以上前から伊予柑を中心としたさまざまな柑橘を栽培しています。
▲ 石丸農園5代目の石丸智仁さん
農園の5代目となる石丸智仁さんは、大学進学を機に上京、在学中に兄とともに食品関係の会社を起業。
事業が軌道に乗りはじめた25歳の時に、実家の農園を仕切っていた祖父の病気が発覚、父と母だけでは作業、運営を満足に行うことが困難に。
柑橘の産地として有名な愛媛県ですが、現実は厳しく、どの農家も後を継ぐ人がいない状況で60歳を超えた父親世代が“若手”と呼ばれる世界。周囲では、農家を廃業する家が増え、かつて山一面に広がっていたオレンジ色の風景がどんどん消えてなくなっていました、と当時を振り返ります。
「今、自分が農園を継がなければ、もう二度とあのオレンジ色の美しい景色が観られなくなる」
そんな焦燥感に駆られ、石丸さんは東京での暮らしを辞め、起業した会社を兄に任せて地元の愛媛県に戻ることを決意。
しかし、みかんがキャリー1個あたり8000円で売れていた祖父の時代と違い、今の売価はその4分の1程度。みかん栽培だけで生計を立てることは、この上なく困難なことでした。
栽培から始まった農家のスイーツ作り
東京で会社を経営していた石丸さんは言います。
「経営者は、例えばキャリー100個分のみかんが収穫できれば翌年は150個分作ろうとします。しかし、農家はその逆なんです。同じ量でもより美味しいみかんを作りたい、と。僕は両方の気持ちがわかるので、より美味しいみかんをたくさん届けることで、ちゃんと自分が生活していける方法が作れるはずだ、と思いました」
そこで考えられたのが、みかんの美味しさを存分に味わえるスイーツです。
農家なので、いつの時期にどの品種が、どんなスイーツや加工品に向いているかを熟知しています。
さらには、その時期に適した品種だけでなく3L~SSのサイズの中から最適な大きさのものを選んで製造。微妙な違いが、みかんの風味をダイレクトに生かす要となっているのです。
▲ 左から「飲むみかんゼリー」各種、「伊予柑マーマレード」、「みきゃんゼリー」、「果肉たっぷりゼリー」
「愛媛を代表する特産品の伊予柑は、2月頃から香りと酸味、甘さのバランスがよくなります。なので、甘いソフトクリームやゼリーに使うと伊予柑特有のほろ苦さを感じることができます。3月になると甘みが増してくるので、ジュースといった果実そのものを味わう加工品にぴったりです」
石丸農園が手がける商品は、素材の持ち味を生かすだけでなく、アイテムごとに専用のみかんを栽培しているというから驚きです。
「酸味、香り、甘さ、苦みのバランスは、一概に良し悪しで決められないので、何のスイーツに向いているかが大切になってきます」
石丸農園のみかんは、山の斜面で栽培しているため、場所によって日当たりが違い、風味、食感が違うそう。商品作りは、みかんを栽培する過程からすでに始まっているのです。
自分で作って自分で売る
石丸農園のポリシーは、自分たちが育てた柑橘を、自分たちの手で商品にし、お客様に届けること。松山市内にある「Orange BAR」の販売スタッフも収穫作業に携わっているので、お客様への商品説明がリアリティです。
「今年はよく晴れて雨が少なかったので、小ぶりでも甘いみかんができました」と、その時期おすすめの柑橘や加工品を自らの経験を持って伝えています。
▲ 松山空港内にあるオフィシャルショップ「Orange BAR」
▲ 店頭には、蛇口をひねるとフレッシュなオレンジジュースが出るコーナーも
製造スタッフは、専門学校でお菓子づくりを学んだパティシエで常々農園で柑橘のお世話をしています。
「製造と栽培は、分業で行うほうが効率的です。しかし、製造スタッフがみかんの世話をすることで、その年の出来具合による微妙な味、香りの違いが感じとれるようになったりします。
私たちは、シンプルな原材料でゼリーやドライみかん、マーマレードなどを作っているので、自分たちが育てたみかんの特徴を知り尽くしていることが大事だと思っています」と石丸さん。
▲ 手間暇かけることで、みかんの持ち味を丁寧に引き出していきます
▲「果肉たっぷりゼリー」には、商品名通りみかんがゴロリ
想い出深いオレンジ色の風景を守りたい
ゼリーやドライみかんといったすべての商品は、みかん農園に囲まれた小さな加工場で手づくりしています。
「ドライ伊予柑」は、外皮をひとつひとつ手でむき、1房ずつにしてから、内皮を柔らかくするために熱湯で茹でます。茹であがったら再び1房ずつ手で広げて干す。思った以上に手間がかかる作業です。
ゼリーは、搾りたての果汁を大きな鍋に入れて木べらでゆっくりかき混ぜ、こまめにアクを取り除きながら作ります。
▲「みかんゼリー」のアクを取り除く作業
決して大量生産はできませんが、その方がいいと石丸さんは言います。
「僕は事業を拡大したいわけではなく、ただ生まれ育ったみかん農園を次の世代に残したいんです。みかん農家で育った僕は、幼い頃から祖父母とともに山で収穫の手伝いをしていました。土曜日は学校が終わるとまず作業を手伝い、山でお昼ごはんを食べたものです。
東京に進学するまでは、ほぼ毎年、収穫を手伝ってきました。そんな思い出深いみかん農園の風景をただ守りたい。
現在は、僕の息子があの頃の僕のように収穫を手伝ってくれています」
50年続く農園を、通年“旬”が楽しめるスイーツを来世へ。石丸さんの挑戦は、まだ始まったばかりです。
maru石丸農園
https://gurusuguri.com/shop/maru/