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伊勢神宮ゆかりの茶舗が提案する伝統と革新の日本茶

公開日時:2018/10/30 00:00  更新日時:2018/10/30 13:12

明治20年創業の「芳翠園」は、「神宮司庁御用達」の看板を掲げる老舗茶舗。しかし、先代は業界の革命児として知られ、現在もそのお孫さんである杉本洋太さんが新風を送り込んでいます。品質をしっかり守りながら“変わるもの”と“変わらないもの”、その両方の側面からお話を伺いました。

先代「名人憲太郎」から受け継いだお茶の楽しさ

「芳翠園」が誇るお茶「名人憲太郎」は、「神宮司庁御用達」の栄誉を授かったフラッグシップともいえる銘柄。

「以前は、『名人茶』という名前だったんです」と、「芳翠園」常務取締役・杉本洋太さんは言います。「この“憲太郎”は、実在する人物で名字は杉本です」

と、いうことは…「お察しの通り、私の祖父で、先代の社長にあたります。お茶の発展、特に深蒸し茶に尽力した人で、祖父が仕上げた煎茶をひいきにして下さる方が多く、いつの間にか名人茶と呼ばれるようになりました。
その後、祖父が亡くなった後にお客様方のご要望でその名を冠して『名人憲太郎』となり、現在に至ります」

▲「芳翠園」常務取締役・杉本洋太さん

▲ 甘い、まろやか、コク深い味わいの「名人憲太郎」

そんな名人を師に、幼い頃から利き茶の英才教育を受けてきた杉本さん。印象に残っている教えは「当てようとせず、楽しく」だそう。

「本来お茶は、肩の力を抜いて飲むもの。日本の文化として大切だから飲む、のではなく、日本茶は美味しくて楽しい飲み物という提案を心がけています」

老舗の格式を守りながらも、お茶の本質をしっかり捉え時代に合った提案を続ける。その姿勢は、先代社長がお手本でした。

生産者と共に茶畑で汗を流し、茶葉ひと筋で信頼関係を築く

三重県松阪市で400年以上続く杉本家が、明治20年、お茶の製造会社「老松園」を創業、その後「芳翠園」を設立。
2代目となる憲太郎さんの代になると、お茶の生産農家の中に飛び込み、土壌の改良から栽培、茶葉の摘み取りまでを一貫して指導、結果、三重県の茶葉のクオリティそのものを底上げすることに繋がったのです。
その功績が認められ、勲四等瑞宝章叙勲、黄綬褒章受賞。1971年には、昭和天皇皇后両陛下の伊勢神宮参拝の際に極上の銘茶を献上した唯一の茶舗として、ますますその名が高まります。

▲ 右:先代社長の杉本憲太郎氏

「当時は直接、お茶の生産者を指導するというのは珍しかったようですが、祖父は茶葉ひと筋の人。
有機肥料を導入し茶畑の土づくりから始まり、農薬も極力減らして茶葉を育てます。通常、一番茶、二番茶、三番茶と続くところを、新芽の一番茶のみを使用したり、茶葉を摘みとって終わりではなく、次のシーズンの一番茶のための剪定を施したり、とにかく美味しいお茶を作るために工夫や手間暇かけることを惜しみませんでした。
その結果が、叙勲や公に献上の度に感謝状をいただき、献上・奉納を毎年続ける事はもちろん『御用達』として認められることに繋がっているのだと思っています」

信頼関係で結ばれた生産者たちの茶園は、伊勢神宮に流れ込む清流、五十鈴川の源であり、2015年には国土交通省調査による「水質が最も良好な河川」と認められた宮川から水を引いているところも多く、お茶の木が育つ環境にも恵まれています。

▲ 明治20年創業のお茶の製造会社「老松園」

▲ 使う肥料は有機質のもの。愛情を持って丁寧に育てている

さらに「お茶はあくまで生鮮食品」という考えに基づき、自社の仕上げ工場において、特殊な方法で冷却、密封し新鮮さをキープ。
その後、マイナス20℃以下で仕上げ前の荒茶の状態で熟成させるため、香りの高さはそのままに一年を通して爽やかな新茶の味わいを提供することが可能になっています。

「祖父は、昔ながらの伝統を守りながらも常に最新の技術を取り入れる姿勢を崩しませんでした」

「神宮司庁御用達」の看板を支えているのは、伝統と革新、そして茶葉にかける並々ならぬ情熱だったのです。

暮らしに寄り添うものだから水質も温度も選ばない気軽なお茶を

茶葉の栽培方法、火入れの方法など、様々な種類がある日本茶。中でも、最も親しまれている「煎茶」の製造工程を簡単におさらいしましょう。
茶葉は、茶畑で生の茶葉を摘んだ瞬間から酵素の働きにより、発酵が始まります。その発酵を止めるため、蒸熱(じょうねつ)という茶葉を蒸す作業を行なうのですが、この工程にどれだけ時間をかけるかが香り、色、味わいを左右する大きなポイントになります。
一般的な蒸し時間は、30~40秒程度とされ、そこから2倍、3倍と時間をかけるにつれ、味わいに深みが出てまろやかな口あたりに仕上がります。

▲ 味、香りはもちろん、見た目も上品で美しい

「うちのお茶は蒸し方も特殊です。いわゆる“深蒸し茶”よりも、いっそうお茶の旨みを引き出し、コクを出すために、さらに時間をかけた“超深蒸し茶”に仕上げているんです」と、杉本さん。

じっくり時間をかけて蒸すと、茶葉の中まで蒸気熱が伝わり、渋味が抜けてまろやかに。
茶葉の形が崩れて細かくなるため、深い味わいが出るのだそう。

▲ 特殊な方法で蒸された“超深蒸し茶”

▲ 2煎目、3煎目でしか味わえない風味があります

この「超深蒸し茶」を考案したのも、名人・憲太郎さんでした。

「70年位前に、東京でお茶の販売を始めた時のこと。東京の水で淹れてみたら、いつものうちのお茶の味が出なかったそうです。そこで、東京の水、ひいてはどんな水質の水でも美味しく温度も気にせず飲めるお茶を、と研究を重ねてたどり着いたのが、“超深蒸し”という製法でした」

その結果、お湯で淹れると濃厚な旨みと芳醇な香りが、水出しだとすっきり爽やかな甘みが出て、味の違いも楽しめるお茶に。
しかも2煎目、3煎目までも美味しいお茶が完成しました。

「やはり、日本茶は暮らしの中で楽しむもの。敷居を高くせず、淹れる温度も好みで楽しんでもらえたら」

急須を持たない、持っていない若者が多いと言われる昨今。ならばと、杉本さんは急須がなくても手軽に味わえる粉末のお茶を携帯可能なペン型容器に入れて発売。自由に、果敢に攻められるのも、ひとえにお茶そのものの品質に自負があるからに違いありません。
伝統を守るだけにとどまらず、現在進行形で進化する老舗茶舗の味わいをぜひ。

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